令和6年度全道町内会活動研究大会の報告

大会テーマ「地域の絆と安心・安全なまちづくり」

 

 

 令和6年度全道町内会活動研究大会が、去る5月28日、札幌市かでる2.7において、道内各地より約180名の参加を得て、コロナ禍を経て5年ぶりに開催されました。
 大会は、表彰と講演の内容で行われました。講演は、気象キャスターの菅井貴子氏を講師に招き、「安心・安全な地域の支え合いと絆づくり~お天気から教えられること」をテーマにお話いただきました。
 大会席上、北海道町内会連合会の表彰式が執り行われ、12組織74名の方々が表彰を受けられ、受賞者を代表して、江別市の矢﨑聖順さんが謝辞を述べられました。

 

 

▲開会式

 

▲表彰式

 

講演「安心・安全な地域の支え合いと絆づくり」
   講師 菅井 貴子 氏 (気象キャスター)

 

■ 台風はしとしと、週間予報は11時

 

 本日の講演では、天気を通して、地域づくりと絆の大切さをお話させていただこうと思います。
 これから北海道も台風シーズンに入ります。天気のポイントとして、地域の防災を考えるためには、台風の最新情報をチェックする必要があります。台風情報の更新は、午前・午後のそれぞれ4時と10時です。「しとしと(4、10、4、10)じゃすまない台風予報」と覚えて、その時間に台風情報を確認してください。天災から地域を守るという意味で、天気予報は鮮度が命ですので、ぜひ覚えてください。
 もう一つ、鮮度が命という意味では、週間予報です。皆さん、朝や晩にご覧になる方がいるかと思いますが、一日一回大きく変わるのは午前11時の一度だけです。週間予報は、午前11時以降にチェックしていただくとよりお役に立てると思います。「台風はしとしと、週間予報は11時」と覚えてください。

 

■ 北海道へ移住

 

 大学の時に自転車部に入っており、自転車で北海道を半周しました。釧路市、弟子屈町、中標津町、羅臼町、知床そしてウトロの方から知床峠を越えて旭川市へと、2週間かけて周りました。緑は豊かで、食べる物も美味しく、何よりも、北海道の方々は北海道に来てくれてありがとうって言ってくださるんです。私も道民になって北海道に来てくれてありがとうと言いたいと思い、大学1年生の時に北海道移住を決めました。今では父母も移住して、もう80歳を過ぎておりますが、北海道民一年生、正真正銘の道産子になりました。北海道の美味しいもの、きれいな景色、四季の豊かさを味わってほしいと思っています。

 

■ 世界的にも珍しい気候多様性の北海道

 

 北海道は、町によって気候が違う気候多様性です。年平均気温の一番低いのは、上士幌町の3・5度。最も高く10度を超えているのは、松前町、奥尻町、江差町です。日照時間が長いのは、2000時間を超えている池田町、浦幌町、帯広市です。最高気温では、2019年5月26日に佐呂間町で、39・5度という記録があり、全国ニュースとなりました。札幌市では、2023年8月24日に36・3度と最高気温の歴史を120年ぶりに塗り替えました。
 どうして北国なのに暑くなるのか。北海道では、2000m級の山々があるため、フェーン現象が発生します。(※湿潤な空気が山を越えて反対側に吹き下りたときに、風下側で吹く乾燥した高温の風が付近の気温を上昇させること)山が暑さを作り、魔女の風が吹く大地と言われています。
 また、北海道には、世界的にも珍しく海水温の違う3つの海に囲まれています。東の方には、流水の名残があるので、海が冷たく、東風が吹くとヤマセとかリラ冷えで寒くなり、西風が吹くと、海水温が高く、フェーン現象が発生し、暑くなります。そして、南風が吹くと東の方では、海水温が低いため霧が発生しますので、北海道には気候多様性が存在します。
 そして、最低気温では、122年前の1902年に旭川でマイナス41度を観測しています。北海道には流氷が来ますが、これは世界の南限です。こんなに南にあるのに、北極と同じ環境になるのは奇跡です。いろんな条件が重なって、奇跡の大地というのが北海道です。アイヌ語では、食も水もエネルギーも資源も、人間が暮らすのに全て揃っている地、人間の大地という意味でアイヌモシリと言います。このように、北海道は気候多様性があり、農業、漁業、酪農にも活かされています。

 

■ 北海道の気候の変化

 

 最近、北海道の気候が変わってきています。春は桜が早く咲き、夏は暑く、秋は遅く、冬は短く、2月には暖気が流れ込んで氷濤まつりの氷像が溶けて、中止になりました。
 大雨・暴風もそうですが、静かな災害もあります。雨が全く降らないとか、霜の被害もそうです。
 札幌市もこの10年で、昔の函館市よりも気温が高くなりました。蝦夷梅雨傾向になり、札幌市は6月の雨が増え、雪が少なくなりました、夏日は25度以上の日数が2か月もあり、気候の変化がみられます。このように気候が変わってきています。

 

■ 北海道も温暖化が進む

 

 このまま温暖化が進むと北海道はどうなるのでしょうか。地球温暖化で異常気象が増えていくだろうと言われおり、極端な現象が3つ増えます。
 1つ目は、強い台風が日本に来るようになります。個数は少ないですが、強い勢力になります。台風に前線が加わると大災害になります。過去の北海道の大雨災害は、大体台風と前線とセットで見舞われています。
 2つ目は、爆弾低気圧が増えるだろうと言われています。爆弾低気圧は台風とそっくりですが、メカニズムは全然違います。24時間で24ヘクトパスカル気圧が下がり、急速に発達します。
 最後に3つ目ですが、温暖化による北海道寒冷化説があります。北極の氷が溶けると気圧配置が変わり、陸だったところが海になると、シベリア高気圧の位置にズレが生じます。そうすると北海道では寒く、雪がたくさん降るという傾向に変わってくるだろうと言われています。
 1シーズン前、小樽市と留萌市でドカ雪に見舞われ、観測史上一番の大雪になりました。2シーズン前は、日本全国大寒波に見舞われ、山陰では猛吹雪で立ち往生になりました。3シーズン前は、札幌市など道央圏で、二回のドカ雪により、三日間交通機関が麻痺し、物流もストップ。ごみ収集車も来られず、除雪車も入れない。さらに、雪を捨てる場所がないという大被害に見舞われました。
 このように、温暖化で「強い台風が増える」、「爆弾低気圧が増える」、「冬が寒冷化していく」という3つの影響が心配されており、防災対策というのがこれから欠かせなくなります。

 

■ 災害発生時の5つのリスク

 

 ここからは、私の気象予報士の業務を通じて得た災害時の5つのリスクをお伝えします。皆さんに一緒に考えていただくことで、地域づくりに活かしていただきたいという願いがあります。

 

災害発生時の5つリスク

 

1 予測ができない

2 予測ができても、情報が伝わらない

3 発災後、情報が伝わらない

4 予測できても、対応できない

5 予想できても、対応しない

 

 まず、1「予測ができない」事例は竜巻です。北海道で日本最大級の竜巻が2006年11月、佐呂間町で発生しました。竜巻は、距離としては横幅が数10メートルで、局地的に大きな被害をもたらしました。翌年から気象庁が情報の見直しを行い、2008年3月から竜巻注意情報の発表を開始しました。竜巻注意情報の適中率は5~10%程度です。気象庁も空振りするかもしれないと思っていますが、命には代えられないので竜巻注意報を発表しています。竜巻が発生したらまず助かりません。対策して損した。逃げて損した。と思わずに、情報にも慣れないでいただきたいと思います。線状降水帯予測も的中率30%以下です。発生しないことを願いますが、発生するとまず無事では済みません。
 2「予測ができても、情報が伝わらない」ですが、過去には、冬の嵐、爆弾低気圧を前日から予想できていました。しかし、昼前に小康状態で晴れてくる予報でしたので、そこで外出してしまうと絶対に帰れないくらいの嵐になることがわかっていたため、各局の気象予報士は、晴れても絶対外に出ないでくださいと、繰り返しお伝えしましたが、天気予報の視聴率から考えるとなかなか伝わらない。どのように伝えるかという課題が残りました。
 3「発災後、情報が伝わらない」これは北海道胆振頭部地震の私たち道民の経験ですが、ブラックアウトの時、スマホが繋がらなかった時間があります。被災地で何が起こっているのか、物資がいつ届くのか、電気がいつ復旧するのか等、情報・流通のムラが起きました。大きい災害の時は情報が伝わらなくなるリスクがあります。
 4「予測できても、対応できない」は、2016年に北海道で台風が5個も来ました。2週間という短い間に2日に1個の台風が来ていました。台風が来るたびに地盤が緩み、川の水位が上がります。よく何かあったら自宅に避難、垂直避難、在宅避難と言われます。避難指示が出てから、特別警報が出たら外に出ないでと言われることがありますが、ケースバイケースです。家だから安全ということはありません。家ごと流されることもあります。その土地に長く住んでいる方は「ここは昔から大丈夫だった」「何かあったら神社に避難すればいい」とよく言われます。しかし、地盤の良い神社ですら被害に遭っていますので、新たな対策を見直し、想定外を想定した対策を考えていただきたいと思います。
 5「予想できても、対応しない」ケースがあります。私もそうですが、「私は大丈夫、ここは大丈夫」「みんな逃げてないから大丈夫」、「みんなここにいるからここは安全だ」と思ってしまう。これは災害心理学です。
 2022年4月23日に大きな災害がありました。知床の観光船KAZU1(カズワン)が出航した日です。なぜ、出航したのかはわかりませんが、おそらく正常性バイアスが働いたのだと思います。その日は寒冷前線が通過した日で、地元では漁が行われないほどの恐い気圧配置だったこともあり気象災害であると思いましたので、予想できても、対応しないケースとして紹介しました。(ハッチの不具合など設備上の問題がありましたが、高波や強風にあおられたことも要因です。)
 今後、予測ができないということは改善されてくると思います。5、6年おきにスーパーコンピューター・富岳に更新されていますので、令和の時代、天気予報が当たるようになります。将来、竜巻の予測やどこで雷が落ちるかということもわかるかもしれません。気象技術というのはとても頼もしい科学技術ですので、そういった技術からの情報を皆さんの生活にも活かしていただきたいと思います。

 

■ 助け合い「自助」、「公助」、「近助」

 

 命を守る三原則では、①「情報」は大事です。しかし、情報だけでは命守れませんので、②「備え」のほか、③「知識と意識」も持っていただきたいと思います。そして、地域においては、何かあったらまず自分の身を守る「自助」、公が助けてくれる「公助」そして、一番効果的な「近助」です。あそこにはご高齢の方がいる。あそこには赤ちゃんがいる。あそこは日中留守だとか、近所の方はよく知っています。「近助」では、地域の支えと普段からのコミュニケーションが大事です。何かあった時に助け合う関係を築いていきたいと思います。
 私は「北海道に来てくれてありがとう」という言葉に感動して北海道に来ました。これからは「豊かで安全な北海道に来てくれてありがとう」という言葉をかけていきたいと思います。
 本日の講演をきっかけに、みなさんの地域での取り組みについて考えていただき、健康に留意されてお過ごしいただきたいと思います。

 

(文責 事務局)

 

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