令和4年度町内会活動実践者研修会報告

シリーズ㉒ 認知症への理解~地域での見守り・支え合いの仕組みづくり

 

 

 令和4年度町内会活動実践者研修会が8月4日札幌市において、オンラインと会場参加の併用開催として約290名の参加を得て開催されました。
 本年度は、認知症への理解~地域での見守り・支え合いの仕組みづくりをテーマに、実践報告と講義の内容で行われました。

実践報告

テーマ「福祉見守りボランティア事業“ご近所さん”」
長尾 由紀子さん(北区あいの里Cステージ町内会前会長)

 

 “ご近所さん”を10年前にスタートしました。要支援者1名をサポーター2~3名で支援。支援内容は、日常の見守り、困りごと相談、緊急支援、ゴミ排出等。ご近所さんの感覚で、自然に見守る体制が根付き、住民同士が「見守り」「見守られ」、互いに支え合う意識が生まれました。出来る人が、出来る時に、お互いが負担にならない様にそっと見守り見守られ、一人の力は小さくても、皆の力が集まれば大きくなりますとお話いただきました。

 

テーマ「認知症を抱えながら地域活動を実践する」
佐藤 徹郎さん(南区六寿会会長・澄川第6町内会文化部長)

 

 頭の手術を繰り返し、後遺症が残りましたが、地域に繋がることが自分の幸福・健康のもとです。できることはやろうと、老人クラブと町内会の役員を継続。傾聴に徹し、褒める、批判しない、いつもニコニコ、挨拶を心がける佐藤さんを周りの皆さんが応援。佐藤さんの幸せの原点は人の役に立ち喜ばれること、そのための苦労は惜しまないとお話いただきました。

講義概要

テーマ「認知症の人と家族がともに笑顔であゆむために」

    ~認知症の人の心の声に耳をすませて~
講 師:札幌医科大学保健医療学部看護学科  木島 輝美 氏

 

 本日は、認知症の方が普段どんな思いで過ごされているのか、自分が認知症になった時どんな暮らしをしたいのか思いを馳せていただければと思います。2025年、団塊の世代の方たちが75歳以上になると700万人、65歳以上の方の5人に1人は認知症という状況が迫っています。日本の認知症の有病率は世界一番で独走中です。これから日本でのケアや国づくりが世界の見本になっていくのかもしれません。

 

◆レビー小体型認知症のお父様が描いた絵

 

 皆さん右の絵をどう思われますか。これはレビー小体型認知症を診断されて約2年後の父が描いた絵です。当時は母と二人暮らしで、母が「お父さん何か書いてみたら」と白い紙とペンのセットを置き、しばらくして戻ると、この絵が描かれていました。初めて見た父の絵でした。とてもびっくりして、父に「これ何を描いたの?」と聞くと、自分の頭の中を描いてみたと言います。よく見ると数字や文字、アルファベットみたいなもの、いろんな色の形のものが散らばっている感じです。いろんなことを形や言葉にしようと思っているけれども、うまくまとまらない感じがよく絵に出てるなと感じたのと、明るい感じがしました。父の頭の中は今そんなに暗くなくて、家で穏やかに明るい気持ちで過ごせているんだなと感じて、とても嬉しかった思い出があります。

 

◆認知症の種類・レビー小体型認知症

 

 レビー小体型認知症は、体の動きが徐々に悪くなるパーキンソン病と親戚の関係にあります。脳の中の運動を司る部分にレビー小体ができるとパーキンソン症状(手足の震えなど)を起こし、認知に関わる部分にできると認知症の症状が起きます。進むと、認知症からだんだん体の動きが悪くなることもあり、転びやすい方も多くなります。中でも、特徴的なのは幻視で今そこにないものがあたかもあるかのように見えます。壁や天井の黒いシミが虫がたくさんいるように見えて大騒ぎになったりもします。レビー小体型は、良い時と悪い時を繰り返しながら、徐々に機能が落ちていくことが多いです。

 

◆認知症の種類・脳血管性認知症

 

 脳血管性認知症は、脳血管障害(脳梗塞や脳出血などの脳卒中)が原因になることが多いです。脳の血管が障害された部分に対応した認知機能の低下が起きます。また、麻痺や構音障害など身体症状も伴う場合が多いです。一方で、脳の健康な部分は正常に働いていますので、できる部分とできない部分の差が大きいです。脳血管性認知症を進行させないためには、脳卒中発作を予防することが大切です。

 

◆認知症の種類・アルツハイマー型認知症

 

 一番多いのが、アルツハイマー型認知症です。脳にアミロイドβという異常なタンパク質が蓄積して、脳が萎縮していきます。萎縮の経過は認知症の診断を受ける10年以上前から変化は起きていると言われます。脳の萎縮していく順番もある程度は決まっています。アルツハイマーの場合はタツノオトシゴに似ている海馬から萎縮が始まることが多く、記憶の司令塔と言われ、記憶が一旦ここに蓄積されて、移っていくと言われています。ここが萎縮すると、まず記憶力が低下、新しいことが覚えられなくなるのが特徴的です。ただ、古いものの記憶はまた違う場所に移っている場合が多いので、古い記憶はあるけれど、新しいことが覚えられない症状が最初に出てきます。アルツハイマー型は、なだらかに認知機能が低下していく方が多いです。

 

◆脳の部位とはたらき

 

 脳は場所によっていろいろな機能があります。例えば①海馬は記憶です。海馬の近くの②側頭葉は、耳から聞いた言葉を理解する、③前頭葉は、感情のコントロールをしたり、物事を考え判断する、④頭頂葉では、物体や空間の認識、読み書き計算にも関わっており、⑤後頭葉は、視覚情報から物体を認識するところです。アルツハイマーの場合はこの①、②、③、④、⑤の順番で萎縮していくと言われてます。レビー小体型認知症の場合は、後頭葉が先に萎縮していきます。見たものをきちんと認識できなくなり、幻覚としてあらわれてしまう特徴を持っています。

 

 

◆認知症を診断するための検査

 

 認知症を診断するための検査は、問診と心理検査で質問したり、画像検査で頭の写真を撮ったり、脳の血流を測ったり、血液検査もしたりします。一番大事なのは問診です。早期だと頭の写真を撮ってもほとんど変化が見られない時もあります。でも、生活上は違和感があることがあります。生活上で気になるエピソードを、その都度書き留めるなどして、診察の時間で先生に伝えられるようにすると良いと思います。

 

 

◆認知症診断後の支援~リンクワーカー

 

 実際に診断がついた時、これからどうしたらいいのか、誰に相談したらいいか困っている方も多いです。私は、こうした認知症の診断を受けて、介護保険などを受けるまで何のサポートも受けられない時期の方々に対してのケアを考える研究を行っています。イギリスのスコットランドでは、既にそうした診断後支援が行われています。認知症の診断を初めて受けた人と家族に対して、訪問して相談にのってくれる、リンクワーカーというケアマネージャーのような職種が確立されています。日本でも確立させたいと思っているリンクワーカーの支援をいくつかご紹介します。

 

◆「疾患と症状への対処を理解する」

 

 まず、認知症の細かい症状や対処方法など必要な情報をていねいにその都度伝えられるようなシステムが必要だと思っています。日本では地域包括支援センターなどがありますので、相談いただければ認知症の症状や対応について、必要なサービスなども紹介していただけると思います。

 

◆「コミュニティとのつながりを維持する」

 

 次に、コミュニティとのつながりの維持は、まさに町内会の活動ともつながるところだと思います。コミュニティといってもいろいろありますが、もともとその方が所属していたコミュニティとのつながりの維持が望ましいです。しかし、もし会社を辞めたとしても、住んでいる地域のコミュニティにつながっていることが大事なことだと思います。

 

◆「自分の将来に関する希望などを文書に残す」

 

 最後に、自分の将来の介護のあり方などを計画することです。日本人の苦手なところです。日本では「人生会議」といわれ、自分が意思決定できなくなった時に治療をどうするか話し合っておきましょうと厚生労働省も推進しています。認知症の場合は徐々に伝えるのが難しくなっていきますので、初期の段階から自分が動けなくなった時にどうして欲しいのかを話し合っておく必要があります。認知症の方は理解が難しい場合がありますので、繰り返し、分かりやすく説明することが大事です。環境やタイミングを考慮して、時間を置いて複数人で「これがこの方の意思なのですね」と確認することが大事です。そして、決めたことに関しては、最大限に能力を活かして社会資源を利用しながら、その方が困らないように手助けをしていく必要があります。

 

◆何気ない日常が静かにでいいから続けていける 

 

 最後に、日本認知症ワーキンググループによる「認知症と共に生きる希望宣言~一足先に認知症になった私たちからすべての人たちへ」から、認知症のご本人の言葉を紹介します。「何気ない日常が、静かにでいいから続けていける。自分が幸せだなって思える瞬間とともに続けていけること」認知症になったからといって何も変わらなのです。何気ない普段の小さな幸せが続けていけること、私たちと全く変わらない希望なのだと思います。最近はコロナで日常が奪われていますが、こうした認知症の人たちの声に耳をすませながら、町内会活動に生かしていただけると嬉しいです。

 

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