平成20年度町内会活動実践者研修会は平成20年8月3日、札幌市において、道内各地から約130名の参加を得て実施されました。
 本研修会は、様々な町内会の活動場面での実践者研修会として実施し、本年度は、災害時に町内会・民生委員児童委員・行政・社会福祉協議会など地域の関係機関・団体が連携して地域全体で災害時要援護者を支援できるよう個人情報の取扱いを学びました。


実践報告会  災害時要援護者のための体制づくりにむけて

報告@
町内会としての取り組み 「安心して暮らせる地域づくりをめざして」
 宮川保秋会長(恵庭市恵み野東町内会)から、いざというときのための「はい!オアシス運動の推進」による、日常挨拶を交わすことによって人間関係を築いていくこと、また、福祉部福祉委員会が中心となり高齢者世帯へ福祉部便り「ふくちゃん」や各案内文書の手配りによって高齢者の状況把握に努めたり、お食事会を交えた「ふれあいの集い」の定期的な実施など地域のつながりを大切にした活動報告をいただきました。

報告A
行政としての取り組み 「災害時要援護者登録台帳の整備について」
 山谷智彦総括主査(上士幌町保健福祉課)から、平成15年発生の十勝沖地震の際、要援護者の把握が不十分で安否確認がスムーズにできなかったため、民生委員児童委員協議会が「独居高齢者等安否確認台帳」を整備しており、その後、平成17年の断水時に、この台帳を活用して給水にあたりました。しかし、地域住民からの苦情や災害時要援護者に対する防災対策への意見が多数寄せられ、地域での支援を行うため個人情報の提供が要望されました。そのため、行政が「上士幌町災害時要援護者支援実施要綱」を定め、民生委員児童委員の協力のもと個人に同意を得て、「災害時要援護者登録台帳」を整備した報告をいただきました。

報告B
民生委員・児童委員としての取り組み
「災害時一人も見逃さない運動の推進について」
 東方 紘会長(当別町民生児童委員協議会)から、災害時、町内会等が地域の人たちの必要な支援内容等の情報を共有し、安否確認とともに避難所へ迅速かつ安全に誘導できるように「安否確認実施マニュアル」を作成しました。このマニュアルに基づき、地域の皆さん一人ひとりに同意書の記入をお願いして「災害時要援護者台帳」の整備をした報告をいただきました。まだ登録者が少ない状況ではありますが、地域の皆さんの理解を得ながら、「災害時要援護者台帳」を少しでも完成させたものに近づけ、緊急時の対応に役立たせたいとのことでした。

報告C
社会福祉協議会としての取り組み 「災害救援にむけた社協活動について」
 篠原辰二地域福祉係長(新ひだか町社会福祉協議会総務課)から、町内会や行政等との連携により、防災訓練や研修会の実施などの様々な取り組みについて、また、道内の災害発生時に被災地の救援活動を行う場合、新ひだか町社協と道社協が協力して職員やボランティアを派遣し、災害救援活動を支援するための「災害支援協定」を結んだ報告をいただきました。


実践報告会のまとめ 〜石川講師の助言〜 

 地域の関係機関、団体等、連携すべき人たちがそれぞれの実践報告をしたのは、初めてで良かったです。要綱を定め、個人に同意の書面を記入してもらい、自主防災組織など関係団体に提供する上士幌町の報告は、特に関心を持ちました。
 1つ目の問題点として、同意を得られるのは個人情報保護法に対する理解だと思いますが、個人情報を守るために同意を得るのか、皆さんから情報を取りやすくするために同意を得るのか、目的を明確にさせなければなりません。個人情報を取得するには、「第三者提供」と「委託」の2つの方法があります。「委託」の場合は、個々の同意が不要なため、どのように整理していくかが重要です。
 2つ目の問題点は、個人情報保護法が障害となって情報が取得しにくくなっている現状で、自主防災組織が名簿を作成するまでの過程が大変であるということ、さらに自主防災組織が個人情報を取り扱う上で、きちんとしたルールを作らなければならないのは当然のことであり、取得した情報の管理体制をどう築くかということです。
 3つ目の問題点は、情報漏えいが生じた際、故意に漏えいしたわけではなくても慰謝料問題に発展することもあり、町内会長だけが訴えられるなど、個人的に慰謝料の負担を請求される事態が発生する場合もあるということです。情報漏えいが生じた際、リスクの公平な分担が必要だと思われるため、仕組みを作っておくことが必要です。


講義
 テーマ「町内会における個人情報のQ&A〜要援護者支援と個人情報」
講師 石川 和弘 氏(札幌総合法律事務所 弁護士)
 町内会にも個人情報保護法は、適用されるのでしょうか?
 個人情報保護法は、5,000人以上の個人情報を有する事業者に限られるため、通常、適用されることはありません。しかし、町内会は情報の「取得」「利用」「管理」「提供」について、個人情報保護法を参考にした運営が必要です。

 〜過剰反応の是非を考える

●過剰反応という現状
 個人情報保護法が定められた現在、個人情報保護法に過剰反応し、それが障害となって、情報が取得しにくくなっているのが現状です。個人情報保護法の不正確な知識により過剰反応を示し、情報の取得や共有がスムーズにいかないのが現実です。平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震の際、柏崎市において、市防災・原子力課は、同年3月に災害時要支援者リストを作成していましたが、他機関や住民との情報の共有が図られていませんでした。そのため、市がひとり暮らしの高齢者ら約9,000人の安否確認を終えたのは、震災発生から6日後だったとのことです。
 個人情報保護法とは、「いかなる場合も情報を出してはならない、という法律ではない」ということを、まず皆さんに理解してもらうことが大切です。
 最近では、このような過剰反応に対し、国としても次のような動きがあります。
  • 必要な要援護者の名簿を自主防災組織と共有できるような体制作りを自治体に求める。
  • 内閣府、消防庁、厚生労働省、国土交通省により「災害時要援護者の避難支援対策の推進について」と題し、地方公共団体に対し、平成21年までに避難支援プラン策定を要求。
  • 内閣府が避難支援プランのモデルを公表。
  • 個人情報保護に関する基本方針に、「いわゆる『過剰反応』が生じている」という文言を加えることを閣議決定。
 このように国側も、緊急時における要援護者支援には、行政機関と自主防災組織との間で情報の共有が必要かつ不可欠であることは認めています。

●情報の漏えいに伴うリスク
 取得した情報が紛失・誤廃棄、盗難等で漏えいすることも懸念されます。どのように管理するか、自主防災組織がきちんとルールを作らなければなりません。
 情報漏えいが発生した場合、故意に漏えいしたわけではなくても慰謝料問題に発展する場合もあります。情報漏えいでは、慰謝料の相場が形成されていませんが、漏えいした情報がセンシティブ情報(通常の個人情報以上に他人に知られたくない情報)であったり、センシティブとの関連で二次被害が発生した場合は高額化します。

●情報の提供には「第三者提供」と「委託」の2つの種類型
 個人情報を取り扱う上で、@取得、A利用、B管理、C提供の4つが問題となります。その中で一番の問題は「提供」だと思われます。個人情報の「提供」には、個々に同意を取り付ける「第三者提供」と、個々の同意が不要な「委託」があります。後者の「委託」の関係を使って行政と町内会が情報を共有することができれば、個別訪問の苦労はなくなり、行政が管理している情報を「委託する」という方式で、町内会に開示することができます。また、個人情報を災害時に利用する際、人の生命等を保護する必要がある場合として、個人情報保護法23条1項1号により情報の提供が認められます。

●行政側と地域側との共通認識で、協力体制を築く
  災害はいつ起こるかわかりません。起こってからの対策では遅いのです。緊急性を要する場合、平常時から個人情報保護法等関係法令の正確な理解と趣旨に従った運用が重要となります。同意の要・不要に関わらず個人情報の保護は大切です。「提供の場合」は情報の提供を受けた側の管理責任が問われ、「委託の場合」は委託元に必要かつ適切な監督義務が求められるため、マニュアルの整備・勉強会や研修会の実施による意識付けが、情報管理のリスクとその対策として求められます。しかし、情報の漏えいを完全にシャットアウトすることは、難しいため、情報が漏えいした場合のリスク回避策として、情報流出時の損害を保障する専門の保険もあります。現段階では、企業向けに開発されているため、掛金が高額であるという難点があり、この保険の町内会版の開発を求める必要性があります。
 そして、個人情報を取り扱う上で、まず行政側の理解は不可欠な要素です。行政側と地域側との協議をはかり共通認識を持ち、協力関係の体制を築いていくことがポイントとなります。


全体会  
  ○参加者からの質問(回答:石川講師)
質問@ 町内会で防災項目も取り入れた自治条例を制定して、活動していこうという動きがありますが、実際に可能なことですか。
答 え 望ましいです。現在、各自治体での個人情報に関する項目はなく、情報を提供する道筋が明確ではありません。皆さんで協力しながら、どのような道筋で取り組むかが具体的な話になっているのであれば、是非、やってほしいと思います。
質問A どのような方法で、どこから情報を提供してもらえば良いのですか。
答 え 自治体が情報の提供を受け、その自治体から町内会の自主防災組織に情報が提供されることが一番望ましいと思われます。管理体制について、町内会だけで管理するよりも自治体が関与しているほうが良いでしょう。
質問B 委託の場合、町内会が契約の主体になれますか。
答 え 役員を配置し、組織という団体であるので、契約できる団体です。
ただし、委託契約する際、町内会長個人の契約ではなく町内会の契約とすることが大事です。
※本会佐藤代表理事・・現在、道内のほとんどの町内会は任意団体ですが、道州制の中で、町内会事業法人格の申請が検討されています。法人格を取得することで、行政との契約も成立しやすくなると思います。
質問C 現在の状況でも、行政からの情報提供は可能ではないかと思っていますが、各自治体の条例そのものに何らかの手を加えなければならないのですか。
答 え 個人情報において各自治体の条例がどのように整っているか、一般的には幅広く捉えられがちのように思えます。国より「条例の改正を視野に入れて、平成21年までに各自治体において制度を更新しなさい」との閣議決定が出ているので、絶好のタイミングだと思います。
質問D 要援護者に対する支援など、どの程度まで介入して良いのですか。
第三者提供によりトラブルが起きる可能性もあるので、行政サイドから取り組んでもらうのが一番望ましく感じますが、どのようにしていけば良いのでしょうか
答 え 閣議決定が出ているので、制度の中身をよく住民と話し合うことが大切です。平成21年、各自治体においての制度更新後、各自治体の取り組み方によりレベルの差が出てくるでしょう。地域住民の理解を得ながら、早い段階でどのように取り組んでいくかが重要です。

 
全体会のまとめ 〜石川講師より〜 
個人情報保護法により情報開示が難しい時代となっています。助けてあげたいが、本人が情報提供を拒否すれば、調整しがたいのが問題です。この問題に取り組むのは、国より「条例の改正を視野に入れて、平成21年までに各自治体において制度を更新しなさい」との閣議決定が出ている今が絶好のタイミングです。町内会内の連携を深めて、皆さんで協力しあい、実行していってほしいと思います。