平成21年度全道町内会活動研究大会が、去る5月28日、札幌市かでる2.7において、道内各地より約300名の参加を得て開催されました。
大会は、表彰、基調説明、町内会事業法人制度説明、講演の内容で行われ、講演は、名和田是彦氏(法政大学法学部教授)を講師に招き、「地域の支えあい、これからのコミュニティとは」をテーマにお話いただきました。
北海道町内会連合会表彰では、28組織、107名の方々が町内会活動の功績に対する表彰を受けられ、受賞者を代表して、手稲区の加藤千代史さんが謝辞を述べられました。
以下、講演の概要をご紹介します。
▲表彰式の様子
▲大会開会の挨拶
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講演 「地域の支えあい、これからのコミュニティとは」
講師 名和田是彦氏(法政大学法学部教授)
●はじめに
▲加入率低下について語る、
講師の名和田教授
私は、横浜市立大学在職中、先輩の影響で地域に出るようになり、今日まで地域のことを勉強してきました。93年から95年まで留学先のドイツでも地域のことを勉強して、大学に行く昼の時間よりも、地域の会議に出る夜の時間の方が多かったかもしれません。現在は、法政大学に在職し、居住する横浜市では地域福祉計画などのフィールドワークを行っています。
●町内会の加入率低下の問題
今世紀に入り、町内会の加入率が年に1%という目に見える数字で全国的に低下しています。かなり地域差があり、横浜市の加入率は8割。宮崎市は6割。必ずしも、地方が高いわけではありません。政令指定都市は比較的高くて7割以上、札幌市は7割位、仙台市は8割位で、北に行くほど高い傾向にあるようです。横浜市で何故8割もあるかというと、高度成長期に1年に10万人位のスピードで人口が急増した時期があり、行政は小中学校を作るのが精一杯で、道路はいつもぬかるんでいたため、40年程前まで住民の手で道普請が行われていました。このように、横浜市は人口急増で行政サービスが極めて薄い都市だからこそ、住民が頑張らざるを得なかったので、加入率も高いのです。
●生活上の必要がある限り、町内会の仕組みが必要
町内会は生活上の必要が生み出したもので、行政の手が回らないような事情がある時、町内会の加入率が高くなります。北国では雪問題、政令指定都市では人口が多い割に行政がスリム化されているため、加入率は高くなります。生活上の必要がある限り、町内会のような仕組みが必要なのです。90年代以降、日本は不況と財政危機という非常に大きな困難に見舞われ、生活困窮者が増加し、地域社会にも大きな影響を与えています。今一番生活上の必要がある時に、なぜ町内会も弱体化してしまうのでしょうか。
●日本独自の「地域組織」町内会が歩んできた道
地方自治制度は、当初、既にあった自然集落を市町村として制度化し、国の一部にするというものでした。簡便に言うと、これがヨーロッパでもアメリカでも日本でも、近代地方自治制度の出発点であったと思います。ドイツは、住民サービスが課題となり、1970年代にかなり合併しています。しかし、合併後も、住民が大事にしてきた生活共同体を制度に位置付け、合併前の町村には役所の支所として権限を与えるなど、大事にされてきた歴史があります。しかし、日本は近代化の中で、自然集落を制度の外に放置するという非常にひどいことをやってきました。
●明治の大合併で単位町内会を組織
明治22年の明治の大合併では、自治体たるもの小学校を経営できるくらいの規模にしなさいと、合併が強行され、自然集落や町村が小学校区の広さにまで拡大して、以降それが町村になりました。合併してなくなった町村は、制度の外に取り残され、住民側はそれでは困るので、住民の手で町内会を組織し地域的まとまりを守ってきました。
●昭和の大合併で連合町内会を組織
昭和30年前後の昭和の大合併は、血の雨が降ると言われたぐらい強行されました。日本の発展のため、町村は中学校を経営出来る程度に大規模化しなさいと合併が強行され、9千8百の市町村数が3千4百に減りました。今までの町村という地域のまとまりが、またしても、制度の外に放置されました。住民は、そこで連合町内会を組織して、単位町内会の連合した力によって旧町村のまとまりを取り仕切ったわけです。このように、高度成長期の入口のあたりで、単位町内会の層と連合町内会の層という2つの地域の層が皆さんの力によって支えられてきたのです。
●町内会を目立たないものにした高度成長期
高度成長期に入り、2つの大きな変化がありました。1つは日本国民の個人所得の増大です。国が国民所得倍増計画を打ち出し、町内会が提供していたサービスが個人で購入できるサービスになりました。代表的なのが地域の旅行会です。高度成長期で豊かになると、地域の人と行く旅行は煩わしいから自分の車で行きますと個人の意識も大きく変化しました。2つ目は、税収増加による行政サービスの充実です。それまで住民が自主的に行っていた道路の補修、維持、管理などの仕事が、ある時期以降は行政サービスになったのです。高度成長期のこの2つの変化は、助け合いながらやってきた町内会の必要性を減少させ、町内会活動を目立たないものにしてしまい、加入率が下がり始めました。
●バブル崩壊後の地域を支えるのは町内会
その後、1990年代のバブル経済の崩壊以降、個人所得と行政サービスは落ち込み、日本の地域社会は不況と財政危機という非常に大きな困難に見舞われています。この個人所得と行政サービスの落ち込みは、高度成長期の増大と逆転しています。景気対策などの対応はあると思いますが、生活困難な人が激増する今、もう1度、町内会あるいは町内会と連携した地域の力が組織され、元気にならなければ、支えられない状況になっています。しかし、町内会の加入率は下がっているのです。そこで、今世紀に入ってからの加入率低下の原因を仮説で問題提起させてもらいます。
●世帯構造の変化
1つ目の仮説として、世帯構造の変化です。今、1人や2人世帯が多くなり、人口が減少しているのに世帯数が増加するという奇妙な現象が地域で起きています。町内会も加入率は減少しているのに会員数は増加するという現象です。町内会は会員を世帯単位とする合理的な方法をとってきましたが、世帯が個人化して、地域が必要とする要請に応じにくくなってきたことが原因と考えられます。
●町内会もコミュニティビジネスへの発想の転換を
2つ目の仮説として、全てがボランティアによる町内会活動にも限界が来ていると考えられます。町内会もコミュニティビジネスと呼ばれる収益事業で必要なお金を稼ぐなどの発想の転換が必要になってきているのではないかと思います。
●40歳以下の町内会未加入が一番深刻
3つ目の仮説として、アパート・マンションに住む多くの40歳以下の方々が町内会に未加入だと思います。日本では、町内会に自動加入的な地域文化が共有されてきました。しかし、今の40歳以下の方々は違います。会費をお願いすると、何でそんなの必要があるの?という反応から始まります。彼らは理由やその素晴らしさが分ればちゃんと入ってくれるはずです。今、彼らは結婚などで親元を離れ、世帯を構成し始めています。すると、加入率計算の分母ばかりが増えて、加入率がどんどん落ちていきます。これが一番深刻なことではないかと思います。
●活性化のための地域組織「コミュニティ・プラットフォーム」
コミュニティ・プラットフォームとは、自治体を連合町内会ぐらいの地域に区分して、地域の活性化に向けて活動する地域組織を立ち上げる仕組みです。その地域組織には、町内会をはじめ民児協、PTA、子ども会、婦人会、老人会、さらに、NPOと呼ばれるテーマ型の市民活動団体など地域の総力を集めて活動します。こうした試みに町内会としても積極的に関わることによって、町内会も加入率低下の隘路を打破して新しい活路が開けるのではないかと考えます。
●NPOのパワーを町内会に取り込む度量が求められる
地域には、子育て、環境問題などNPOと呼ばれるテーマ型の市民活動をされている方々がいます。その特徴は、先進性、開拓性などと言われ、自分がこれだと思ったことにパワフルに取り組む素晴らしいエネルギーを持っています。一方、町内会の方々は誰もやりたがらないことを粛々と行う静かな義務意識を持っています。両者とも素晴らしい人格で、どちらも地域が必要としています。これからは、テーマ型の市民活動団体と町内会が仲良く、それぞれの力を発揮できるような仕組みを作っていくことが大事だと思います。加入率低下が深刻だからこそ、そうした方々の力を内に取り込んでいく度量が町内会に求められているのではないでしょうか。
(文責 事務局)