平成22年度全道町内会活動研究大会が、去る6月7日、札幌市かでる2.7において、道内各地より約300名の参加を得て開催されました。
 大会は、表彰、基調説明、講演の内容で行われ、講演は、中田 實氏(名古屋大学名誉教授)を講師に招き、「安心・安全をめざして、町内会・自治会の活性化と絆づくり」をテーマにお話いただきました。
 北海道町内会連合会表彰では、32組織、90名の方々が町内会活動の功績に対する表彰を受けられ、受賞者を代表して、帯広市の蛯澤保二郎さんが謝辞を述べられました。
 以下、講演の概要をご紹介します。

  ▲表彰式   ▲大会の開会挨拶


講演 「安心・安全をめざして、町内会・自治会の活性化と絆づくり」
講師 中田 實氏(名古屋大学名誉教授)
●社会の変化と町内会活動
   ▲  講師の中田 實先生

 高齢化や一人住まいの増加など社会状況の変化は、町内会活動に新たな課題をもたらしています。また、役員のなり手不足や加入率の低下は、全国共通の問題であり、個々の町内会の運営上の問題というよりも、日本の社会状況の変化がもたらしている問題といえるでしょう。こうした社会の変化を4つのポイントで考えてみたいと思います。
 

●つながれない現代人の心とつながりの必要性
 はじめに、物事に無関心の人が増え、人々のつながりが無くなってきたのはどうしてでしょう。日本人は集団主義と言われてきましたが、近頃は個性を強調する時代になりました。常識がどんどん欠けていって個性だけ残り得るのでしょうか。今の社会、何が常識で何が基本なのか見えない中、個性の強調は自分が思うことだけを自分勝手に行う状態になってしまうのではないでしょうか。自分とは、社会の枠組みの中での位置によって知るものです。しかし、社会に出て行かず、つながりがない限り、自分が分かる訳はないのです。
 最近、高齢者の万引きが急増しています。下心なく衝動的に、本来なら犯さなくていい罪をつながりがないために犯しているのです。このように生きていくためにはつながりが必要です。今、つながりが大変貴重な財産となるそんな時代になってきているのです。
 

●技術の発展による地域環境の変化が町内会の新たな課題に
 2つ目に、現代社会の環境の変化があげられます。建物の高層化が進み、移動にはエレベーターが欠かせません。地震時に緊急停止して、一番近い階で降りられるよう安全性にも配慮された設備ですが、歩いて地上まで降りるのが困難な人にとっては、安全性が確保された設備とはいえません。全ての人に安心・安全とはいえない技術の発展があちこちにあるのです。また、都市再開発で、商店街がさびれて店が無くなり、買物難民といわれる状態も発生しています。さらに、地域全体で犯罪件数は減っているものの、理由の分からない犯罪が増えていて、治安への不安はむしろ高まっています。人間の心の変化と、環境そのものの大きな変化の中、町内会には今までとは違った新たな対応が求められてきています。

●行政と地域の関係の変化と住民自治への期待
 3つ目に、相互に協力関係にあった町内会と行政ですが、行政改革の流れによりこの関係にも変化が起きています。深刻な社会問題が次々と発生する中、国や行政の責任は、基本原則を明らかにすることで、その先の具体的な活動や解決への責任は地域の問題という仕切りがされつつあります。例えば、毎年3万人を超す自殺問題の「自殺対策基本法」は国が制定しました。そうした基本法を具体的に進めるために、自治体レベルでの基本条例作りが進んでいます。このように地域では、市町村とともに町内会においても、自己決定から自己責任という、権限と責任の重みに応えていかなければならない流れに変わっています。

●市民の自助・自治体制確立への期待と責任
▲社協と町内会について語る中田先生
 4つ目に、日本の社会背景を考えてみたいと思います。高度経済成長期は、国民総中流化の時代と言われ、みんなが幸せになることを追求できた時代でした。バブル崩壊、地球規模に拡大した経済活動と規制緩和の中、様々な競争に巻き込まれて、当然勝つ人と負ける人が出てきます。現代は格差があって当たり前という時代になりました。地域の深刻な問題のひとつにこの格差、貧困の問題があると思います。そして、市民や市民団体が公共サービスを担う、新しい公共の時代とも言われます。行政のやってきたことの一端を担うことは、地域の責任も大変重く、力足らずとなると市民の生存権を脅かすことにもなりかねません。このように、市民の自助・自治体制の確立が求められる現代は、それだけの仕事を期待されると同時に、責任も問われるようになりました。

●町内会はみんなのためにみんなで運営する地縁組織
 町内会は地縁型組織の代表です。その地域にいる人がみんなのために、みんなで運営するのが地縁組織です。だから全世帯加入が原則であり、地域に住む人には平等に加入する権利があります。地域という生活の場の様々な問題、個人では対処できない問題について、協力し合い対処するのが地縁組織の役割です。それがお互いの利益、共益ということになります。共同で負担し共益を担う町内会は自由参加ではなく、地域のみんなで一緒に活動することが当然必要になってくるのです。そのためにも町内会運営には、全ての住民が参加できるような配慮が必要です。特定宗派、党派、営利活動の排除、また情報公開・運営の透明性、計画性、規約に基づいた公平性を持った組織運営が求められています。町内会は、その地域の任意を代表するという機能を持っています。今までの行政の下請けという性格から脱し、分権自治の中での自主的活動、その責任も自分たちが負うということが求められるのです。
 

●個人の問題を地域の問題に見直していく
 以前なら社会が取り上げてきた様々な困難が、形を変え個人の問題となり、自己責任として片付けられてしまっています。個人の問題にしている限り、個人では解決できません。現在の町内会には、個人の問題をもう一度社会、地域の共同の問題として捉え直し、対処していくための想像力、協働力が求められています。
 

●課題解決の取組みができる組織にするための提案
 今後、町内会でも現代社会の問題に直面して、専門性が必要になってくると思います。そこで、町内会の中に専門部を作って分担して専門的に活動する、NPO法人などの専門家集団との連携協力体制を築く、役員の負担軽減のため事務局を設置する、以上3つを提案したいと思います。一方、会員数の減少から、組織の再編などで活動をより充実させようとの動きも見られます。加入促進には、加入するメリットがなくてはならないと思われがちですが、皆さんが会長や役員をやっているのは、メリットがあるからではないと思います。地域の一人としてお互い様、みんなで一緒にやりましょうと、そこに喜びや生きがいを感じているのではないでしょうか。
 

●社会のつながりが求められる時代
 地域には、問題を起こさせない支えあいの仕組みがあります。これこそが地域の強みであり、現代社会において期待される役割です。今後、現代社会の様々な課題に対処するためには、地域内の町内会と行政や専門家集団が共に活動できる多元的なつながりが求められる時代になっています。
 
(文責 事務局)