平成23年度全道町内会活動研究大会が、去る5月26日、札幌市かでる2・7において、道内各地より約300名の参加を得て、開催されました。
 大会は、表彰、基調説明、講演の内容で行われました。講演は、吉原直樹氏(東北大学名誉教授)を講師に招き、「町内会・自治会の活性化と住民主体の地域づくり」をテーマにお話いただきました。
 大会席上、北海道町内会連合会表彰と町内会広報コンクールの表彰式が執り行われ、  37組織、83名の方々が表彰を受けられ、受賞者を代表して、深川市の柴田康行さんが謝辞を述べられました。
 以下、講演の概要をご紹介します。

  ▲表彰式   ▲大会の開会挨拶


講演 「町内会・自治会の活性化と住民主体の地域づくり」
講師 吉原 直樹氏(東北大学名誉教授・大妻女子大学社会情報学部教授)
●東日本大震災の日
   ▲  講師の吉原 直樹先生

 3月11日、私は東京で学術会議に出席していました。大きな揺れが長く続き、関東大震災の再来ではないかと思いました。その後、私のよく知る仙台市若林地区が津波に飲み込まれている映像がテレビで流れました。大変だ。何とかしないといけない。しかし、交通がストップし、3日目にようやく福島空港行きの便に乗る事ができ、福島の友人の車で迂回しながら仙台に入ることができましたが、家は壊れ、水も食物も無い仙台では生活ができず、友人を頼り福島へ戻りました。そして、何か自分に出来ることはないかと、1人のボランティアとして福島市の避難所に入りました。偶然にも福島原発が立地する相双地区の方々の避難所です。そこで、私は避難されている方々のニーズを聞き取り、市やメディアに伝える役割を担いました。避難所で、断片的に聞き取った内容から、ほとんどの方が個々に車で逃げていて、地震が起こって津波が来るまで時間がありましたが、その時、「町内会は全く見えなかった。」と皆さんが言われたことが引っ掛かっています。
 

●阪神淡路大震災と町内会
 阪神淡路大震災で被害が一番大きかった長田区を調査すると、町内会が見えた所は総体的に被害が少なく、見えなかった所に被害が集中しています。同じように火災があっても、犠牲者の数が全く違う。焼け残った所と燃え尽くしてしまった所があり、そういった差異が非常に目立ちました。焼け残った所を見ると、やはりコミュニティの日常と非日常のつながりが大きなポイントになると思うのです。地震が起き、火が出た時、町内会長さんを中心にどの家にどういう人がいるのかすぐに掴むことが出来ました。それは日常の活動の中で、インプットされた情報が、非日常の活動に活かされたのです。今、町内会で一番困るのは、個人情報保護法やプライバシーの問題で、町内会員の情報が把握できないと言われます。しかし、日常の町内会活動を通じて、そのお宅にどういう方が住んでいるのか、ある程度把握できるのです。
 

●東日本大震災と町内会―福島県相双地区の場合―
 東日本大震災で、地震直後の町内会は地域住民にとってどうだったのか、相双地区の方々に避難所で話を聞くと、町内会の姿はよく見えなかったと言います。情報は、行政や消防署の防災無線で手に入れたと言います。ほとんどの方が車で逃げた。地震が起きた時、一番最初に家族、次に親族のことを考えた。隣近所の方々のことまでは頭がいかなかったと言います。それを聞いて、かなり個人化が進んでいると感じました。
 私がボランティアに入った相双地区の方々の避難所は、体育館に最大1,500人ぐらい収容していました。驚いたことに、まるで大海の中の島のように、ある集団と別の集団の領域がくっきり分かれていて、コミュニティが出来ないのです。避難所では家族、親族が中心で、隣りとも情報交換していないのです。阪神淡路大震災の時に出来た避難所コミュニティが、ここではなかなか出来ないのです。地震直後に町内会が見えなかった、避難所にコミュニティが出来ないというのは、町内会に問題があったのではなく、今回の地震のかなり前から個人化が進んでいたのではないかと思うのです。相双地区は、原発の立地により交付金を個人が受け取ることで、それまで集落でまとまって行動していたのが、個人で対応していくような関係になり、こうした個人化は原発が立地する時点から始まっていて、そのことが今回の避難行動や避難所にも表れているのではないかと感じています。私が見たこの避難所のケースは阪神淡路大震災とは、全く別のものでした。

●何でも屋の町内会からの脱却
 私どもの東北6都市の調査から、町内会の構成と機能がかなり明らかになりました。町内会は、地域代表集団であり、地域でバラつきはあるものの70%くらいの非常に高い世帯加入率であること。地域住民と行政との橋渡しが代表的機能であり、町内会活動として色々なことを取り上げる「何でも屋」とも言える包括的機能に特徴があると言えます。
 組織構成では、多くの町内会長さんが献身的に活動される一方で、役員のなり手がなく、リーダーが長期化・固定化して、継承されないという悩みがあります。また、無関心層が多い一般会員と一生懸命なリーダーとの間の乖離が顕著に表れています。そして、地域住民の日常のニーズを媒体してきた町内会と、他の集団・組織との結びつきが非常に強まり、相互交流が進んでいます。今まで何でも屋の看板を背負って町内会が担っていたいくつかの活動や業務を、他の集団・組織にやってもらおうと変化してきているのではないでしょうか。例えば、NPO法人の良さは、フットワークの軽さにあります。町内会とNPO法人は組織の構成原理は違いますが、地域の課題を積極的に受け止めて、それに対して何らかのリアクションをしていくには、両者が相互に浸透していくことが必要になると思います。調査で浮かび上がってきたのは、行政から色々回ってくる仕事を一生懸命やる、あるいは追い回されてしまっている町内会の姿です。町内会は、行政との関係をどのように考えていくかが重要です。行政は、町内会を安易に行政的に起用するのを止め、町内会の自立をバックアップするように転換していく事が大事ではないでしょうか。そうすることで、行政と町内会の新たな良い関係が作れるのではないかと思います。

●日本の混在型コミュニティとアメリカとの比較
 アメリカは、個人が先行し、個人と個人の契約によって社会が成り立つ契約型社会です。自立した個人に基づく社会では、自己決定や自己責任が非常に重要になってきます。アメリカのコミュニティは、これらに基づく一種の近隣政府として、財政権や警察権も持っています。自治体よりも権限を持っているため、物事を決める時は、まず、コミュニティが基礎になるのは、アメリカ的な文化風土によるのです。また、金持ちだけ、貧乏人だけのコミュニティとくっきり分かれており、階層的に同質な人が住むのがアメリカのコミュニティでもあります。では、日本のコミュニティは、どうかと言うと、国家体制の一番底辺にあると考えてもらうとよいでしょう。これは日本人のお上意識と非常に関係があり、国家があってコミュニティがあるという考え方が今でも強いのです。同質的なアメリカのコミュニティに対し、日本のコミュニティは混在型です。良くも悪くも横並び社会になるわけです。
 グローバライゼーション(世界規模化)の中、これからの日本は、外国から人や物がどんどん出入りし、異質なものが混在する社会になっていきます。日本の混在型のコミュニティは、現代化して生かされれば、新しい混在型社会のモデルになるのではないかと思います。

●町内会の歴史と住民層を緩やかに把握する
  町内会の再活性化のために、まず、皆さんが自分たちの地域を本当に把握できているのかを検証してみる必要があると思います。地域の誕生から成熟して発展していく過程で、現実に今どの段階にあるのかという地域の歴史、そして、住民層の把握です。個人情報保護法があり、地域住民の家族構成など正確な把握が出来ないとよく言われますが、正確に把握する必要もないのではないかと思います。日常的に隣り合うことによる、呼び掛け、声かけこそ住民層の把握の出発点になります。洗濯物を干しながら、周辺を見るような眼差しで、見守りや隣り合うということを契機に生活を共にしていることを皆が確認していくことが大切なのです。あそこには身体の不自由な人がいる、あそこには引きこもりの人がいるといったようなことを頭の隅に置いておく。そういったことを幾重にも重ねていくことで、住民層を緩やかに把握することが大事なのではないでしょうか。

 

●町内会を自己検証して、人的資源や活動資源を把握
 私が具体的に提案したいのは、町内会の自己検証です。町内会にはどういう人的資源、活動資源があり、自分たちが出来ることは何かを検証してみてください。そのための調査として、町内会の全体像、構成と機能を知るために町内会長に対するアンケート、同時に、町内会をどう評価しているのかを知るために一般住民へのアンケートが必要です。これらの調査を通して、人的資源、活動資源の状況を把握することができ、他の町内会との比較ができます。そして、町内会の資源をどのように活用していくのか、専門家集団、行政職員の支援をもらいながら、ワークショップを開き、議論することで、住民自体が将来像を描き出し、地域力の向上にもつながってきます。これは同時に行政、NPO法人やボランティア団体等との関係を再検討したり、新たな関係づくりにも繋がっていくのです。
 
(文責 事務局)