平成24年度全道町内会活動研究大会が、去る5月29日、札幌市かでる2・7において、道内各地より約300名の参加を得て、開催されました。
大会は、表彰、基調説明、講演の内容で行われました。講演は、小泉武夫氏(東京農業大学名誉教授)を講師に招き、「食の安心・安全を通して地域の絆を考える」をテーマにお話いただきました。
大会席上、北海道町内会連合会表彰の表彰式が執り行われ、25組織、103名の方々が表彰を受けられ、受賞者を代表して、札幌市手稲区の平田東助さんが謝辞を述べられました。
以下、講演の概要をご紹介します。
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▲大会の開会挨拶
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▲表彰式
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■ 講演 「食の安心・安全を通して地域の絆を考える」 |
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講師 小泉 武夫氏(東京農業大学名誉教授) |
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●はじめに
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講師の小泉 武夫氏 |
私は、北海道とは縁が深くて、5年前から北海道名誉フードアドバイザーとして道内各地を回っています。また、全国地産地消推進協議会の会長として、全国を歩いてきて、食を通じた地域の絆がこれから本当に欠かせないものになると感じています。本日は、食文化のうえから、日本が抱えている2つの大きな問題についてお話します。
●農家の衰弱で食糧自給率が減少
1つ目の問題は、農家の力が衰弱してしまったことです。食糧自給率が30%にまで落ちてしまいました。北海道は自給率が200%近くて安泰だと言われていますがTPP(※)に参加したら、吹っ飛んでしまいます。国内農産物の総生産量の4兆円が消えるだろうと言われています。
専業農家の平均年齢は67歳で、世界一高齢です。また、農家が耕作をしていない耕作放棄地面積は、埼玉県全域と群馬県の一部ほどもあります。自給率を上げようにも、作る人がいないのです。自分たちで作らないのなら、外国から来る作物を食べなければなりません。そうなると日本人の食物の安心・安全は、もう保てなくなります。
※TPP:環太平洋パートナーシップ協定。環太平洋地域の園々において、あらゆる貿易品目の自由化を目指す経済的枠組み。
●食生活の激変で平均寿命がダウン
2つ目の問題は、日本人の寿命が下がり出したことです。多くの人は沖縄県民が一番長生きだと思っているかもしれませんが、厚生労働省の寿命ランキングのトップは長野県です。沖縄県は15年程前から落ち始めています。
原因は既に分かっています。それは、和食を中心としてきた日本人の食生活が、洋食中心に変化してしまったからです。この60年間で、日本人の油の消費量は5・6倍、肉の消費量は4倍を超えました。日本人の食生活は、高タンパク、高脂肪、高カロリーになってしまい、昔は少なかった生活習慣病やアトピー、アレルギーなどの疾病がどんどん増え、国民一人あたりの医療費が世界で一番高くなってしまいました。
戦後、沖縄がアメリカ統治になると、肉や缶詰等が増えて、沖縄の人たちの食生活は激変しました。沖縄で平均寿命が下がったのは、消化器関係の病気で亡くなる若い人が増加したためです。一方で、沖縄のお年寄りは食生活を変えなかったので、長生きをしています。
●若い人を農家へ派遣するプロジェクト
1つ目の問題、農家の衰弱について考えます。
例えば、日本とイギリスの食糧自給率を1968年と昨年とで比較すると、完全に逆転しています。イギリスでは、食糧生産を地方である州に委ね、州は各農家に農作物の生産を委託しています。州では、州内で一年聞に消費される農作物の量をコンピュータで分析し、各農家へ分散して注文するので、過不足がありません。州は、買った農作物を州外には出さずに、州内の学校給食や市場に納めるので、100%地産地消が実現しています。作った人の顔が見え、安心・安全が保証されています。
しかし、日本の場合、農家の高齢化で作物を十分に生産できないため、これは適用できません。農家の労働力を若くすることは急務です。国民総体制で農作物を生産しなくてはいけないので、私は若い人を農家に送り込むプロジェクトを考えています。学生や社会人を1〜2年間、農家に派遣します。その間、学生には単位を与え、社会人の所得は国に補償させます。私の試算では、食糧自給率を10%上げるのにそんなにお金はかかりません。若い人が地方の農家へ行くと、すごく賑やかになり、町内会にも活気が出てくると思います。
●生産者・販売者・消費者が絆で結ばれる流通
私は、兵庫県で生産者が農協・漁協に納めた商品を生協で販売するユニオンを結成させたことがあります。そうすると、生産者と販売者と消費者が線で結ばれ、非常にうまく流通しました。北海道もそのような流通経路を作れば、より豊かになります。
また、大分県でスーパーマーケットを利用して農家を活性化させた例もあります。あるスーパーマーケットの約3分の2を農家の売り場とし、各農家へ1畳分、約60軒分を提供しています。そこは10時に開店すると、驚くべきことに、午前中のうちにほぼ売り切ってしまいます。買いに来ているのは、ホテルのシェフや、飲食店の料理人等のプロです。買った物を東京ヘ送って利益を上げる人までいます。朝もぎで新鮮であること、中間マージンが無く安いこと、市場と異なり早朝でなくても購入できることが、プロに支持されている理由のようです。また、午後に商品を補充すると、今度は家庭の主婦が来て、これまたきれいに買っていきます。作った人の顔が見え、安心・安全です。ここでは農家は売上げの11%を場所代として支払いますが、あとは全部自分のものになり、農家の所得も上がりました。
●農家の活性化のために、農業を若者に委ねる
私は、農家に若者が来ないというのは嘘だと思います。大分県日田市の大山町という町に、小麦農家が経営するパン屋が何軒もあります。そこの農家が、自分のところでパンを作る若者を募集すると、非常に多くの応募があります。北海道でも、素晴らしい牛乳を作って、それで世界一のチーズに挑戦しないかと募集すると、若者がたくさん来ます。このように農家を活性化していくことが非常に重要です。やはり日本は、農業を若い人たちに1日
も早く委ねるべきだと思います。
●日本人の遺伝子に反する肉食生活
2つ目の問題、日本人の食生活が激変したことによる弊害についてお話します。
近年、日本人の食生活は、西洋人の食生活ヘ劇的に変化してしまい、遺伝子がこれに対応出来ず、体がついていけなくなりました。
日本人は今から60〜70年前までは質素な物ばかりを食べてきたので、日本の赤ちゃんは、他の民族より腸の長さが圧倒的に長いのです。遺伝子は、民族の長い間の生活環境に応じて、コピーされてきています。この民族の遺伝子は、食べ物にはてきめんに作用します。日本人は、歴史上牛乳を飲まなかった民族なので、牛乳を分解する遺伝子がなく、お腹がゴロゴロしたりします。また、肉を食べてきた民族でもないので、野菜を摂らず肉ばかり食べていると、直腸がんになるリスクが非常に高くなります。
●日本人は菜食主義者
日本人が何を食べてきたかというと、1つは大根とか芋などの根茎。次に白菜やほうれん草などの菜っ葉。果物やトマト、キュウリ等の青果。春は山菜、秋はキノコを食べます。あと、豆も食べてきました。特に大豆。ワカメ、コンブ等の海草。主食の米、または麦。肉や魚、卵はあれば食べてきました。
人聞は必ず3大栄養素の一つであるタンパク質を摂らなければいけません。肉や魚等のことですが、日本人は肉を食べなくても、肉と全く同じものを食べてきました。大豆です。大豆のタンパク質を測ると16〜17%、和牛のタンパク質とほぼ同じです。
日本人は、この地球上に現れた民族の中で、最も菜食主義者です。日本人が主に食べてきたものは、植物だけです。植物は繊維でできていますが、繊維は不消化物ですから、腸にたまるともみくだす蠕動運動が活発になり、免疫力が高まります。免疫の強い人は病気になりません。
●食物繊維とミネラルの効力
東京大学医科学研究所が、放射性レベルが高い福島県福島市と郡山市の子どもの体を調査したところ99%セシウムが未検出だったそうです。それは、福島県では和食が多く食べられているからです。和食に使われる植物を食べていると、植物に含まれる繊維が放射性物質を吸着して体外へ排出してくれます。また、報道によると、小・中・高校生の暴力事件が年間6万件。この3年間で7割増だそうです。これも、和食を食べなくなったことに関係があります。植物は土に根を張って、豊富に存在しているマグネシウム、鉄、カルシウム等のミネラルを吸着して生きています。人聞はミネラルが不足すると、興奮ホルモンのアドレナリンをすぐ出すので、怒りやすくなります。和食を食べなくなったので、この60年間で、日本人のミネラルの摂取量は4分の1になっています。
●地産地消で地方から豊かになる
最後に厳しい調査データをお話します。農林水産省が全国の中・高校生にある調査を行いました。その中で、今住んでいる町が好きですか嫌いですかという内容がありました。結果は、8割が好きか嫌いか分からない、あとの2割は嫌いという回答でした。私はこの町が大好きだという学校のトップは、高知県南国市の子ども達です。南国市では10年前から、教育委員会と農協・漁協が一緒になって地産地消に取組み、市内の学校給食に占める地元
食材の割合が93%に至っています(全国平均は23%)。これによって、病気の子が少なくなった。成績が良くなった。イジメがなくなった。給食を残す子がいなくなった等の、良い結果が出ています。地元の食材を食べている所は、子どもが地元を愛しています。
このようなことを考えて、皆さんの地域でも和食を食べさせる運動、それから地元の食べ物を一生懸命食べさせる運動。また、皆で若い力を農家に注ぐような教育をしていくと、この日本は地方から豊かになると思います。
(文責 事務局)
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