平成24年度町内会活動実践者研修会は平成24年8月3日、札幌市において、道内各地から約130名の参加を得て実施されました。
 本年度は、災害時に地域住民が互いにたすけあえ
るまちづくりを進めるため、災害図上訓練(DIG)を学びました。

実践報告  災害図上訓練(DIG)の取組み

報告@
災害図上訓練(DIG)の取組み
  恵庭市恵み野北町内会長 小林 克己 氏
▲報告者の
  小林会長
●自主防災組織結成とDIGの実施
 恵庭市恵み野北町内会(1,355世帯)では、大規模地震の原因となり得る活断層がある恵庭市において、住民が組織的に防災活動へ取組む必要があると考え、自主防災組織を立ち上げました。この自主防災組織が中心となり、マグニチュード7規模の直下型地震が発生したという想定で、DIGを実施しています。DIGでは、初めに、@地震発生直後に何をするか、A地震から3時間後に何をしているか、B避難することになり家で何をしていくか、C避難場所に何を持っていくかの4項目について、災害時を想定したイメージ訓練、次に、グループ毎で地図に書き込みをしながら、避難経路の確認、災害時要援護者への対応等を話し合いました。

●まちを知って災害に備える
 さらに、当町内会では、災害に対して3つの備えをしています。1つ目に、災害用伝言ダイヤルや防災用品、応急処置、避難場所等をコンパクトに記載した防災手帳を作成し、全世帯へ配布しています。2つ目は、防災マップの作成です。このマップは、自主防災組織のメンバーが現地を確認し、避難場所や消火栓、応急治療所、AED(自動体外式除細動器)、トイレ、放送塔の位置を分かりやすく示しました。3つ目は、福祉マップの作成。これはカラーA3判で、持病や障がいのある方は黄色、ひとり暮らしの高齢者は青色等、色分けしてあり、年に2回程、現状を確認して随時修正し、災害時に役立つよう町内会の主要役員へ渡して情報を共有しています。

●防災訓練で安心・安全な地域を
 これらの取組みに加え、当町内会では、防災資機材の取扱い、避難誘導訓練等を定期的に実施しています。防災資機材の取扱いでは、担架などの他、昨年購入した小型発電機を誰でも使用できるように訓練しました。避難誘導訓練は、火災発生を想定して、警報器の取扱いや負傷者の対処等、消防署の指導を受けて実施し、あわせて、冬期間に大規模地震が発生した場合の対応について確認しあいました。さらに、近隣市町村の防災への取組みを学ぶため、昨年は平取町の二風谷ダムに出向きました。
 今後も町内会で防災訓練を継続し、安心・安全な暮らしを守っていきたいと考えています。

 ▲小型発電機の始動訓練

報告A
大川町第4区会における災害図上訓練(DIG)の実施
余市町大川町第4区会長 金澤 治 氏
▲報告者の  
  金澤会長 
●DIGの目的は3つ
 余市町大川町第4区会(74世帯)では、東日本大震災の発生をきっかけに、自分たちのまちの防災のために、DIGを実施しました。
 DIGの目的は3つあると言われています。1つ目は災害を知ること。災害の状況を認識し、どういう被害が予想されるかを想像します。2つ目は区内を知ること。グループで議論をしながら、地図に様々な書き込みをし、災害時の危険箇所を確認し、普段行き来しているまちを再認識することです。3つ目は人を知ること。区内で災害時に頼りになる人は誰か、災害時要援護者が居る家はどこか、区内の人達をいろいろと知ることです。私は、3つ目の人を知ることが、最大の目的だと思っています。

●福祉施設も交えてのDIG
 当区会では、昨年6月14日、21名が参加してDIGを実施しました。区内には福祉施設「グループホームなかじま」があり、足が不自由な高齢者が多く入居しているため、災害時の対応を地域の人たちとともに考えたいとのことで施設長が参加されました。
 DIGでは参加者が4班に分かれ、地図に様々な地域の情報を書き込みました。「そこは道路が狭く消防車は入れない」「ここは危険な場所だ」「消火栓の場所が分からない」等、議論をしながら試行錯誤の末、区内の防災地図を完成させました。この後、具体的な被害を想定した図上訓練を実施し、避難経路を地図上で確かめました。特に、災害時のグループホーム入居者の避難には、多くの課題があげられたので、災害に備えて日ごろからグループホームと区会の連携が重要であることを確認しました。

●防災活動の継続を
 訓練終了後の各グループからの発表では、「住み慣れた区会でも、気づかなかったことがたくさんあった」「実際に避難場所まで行けるか不安になった」「災害時要援護者を避難させるにはどうしたらよいか」等の話があり、参加者が普段は意識しない区内の課題に気づいたようでした。また、「地図上の訓練をもとに、実際に避難訓練をやりませんか」という意見もありました。  
 ▲DIGの実践
 地域で防災活動を行うことは、住民の支え合いに必ずつながっていきます。本年、当区会では、地震と津波を想定した避難訓練を計画しています。私は、避難訓練は何度も実施し、その都度いろいろと反省し見直していくことが、被害を最小限に防ぐことにつながり、自分達の命を守ることになると考えています。


講義・演習
 テーマ「防災(減災)の視点からわがまちをみてみよう!
〜DIG(災害イメージ訓練)を用いて」
講師 佐々木 貴子 氏 (北海道教育大学札幌校 教授)
▲講師の       
佐々木貴子教授
●DIG誕生の経緯
 私は、ちょうど阪神・淡路大震災が発生した年に、専門だった「食育」の研究をするために兵庫の大学へ行きました。しかし、大震災で多くの子ども達が圧死した現実を受け、防災の視点からの生活教育という研究を始めました。
 そして、三重県鈴鹿市の南部さんに出合いました。阪神・淡路大震災後に災害救援ボランティアとして、高齢者の世話をしていた南部さんは、地域に住む人の顔が見えるような地図を作り、防災関連施設や危険箇所を確認し、災害時要援護者の対処や避難の訓練を地図上で行う、災害図上訓練を考えました。
 DIGの名前をつけたのは、当時、防衛庁防衛研究所に勤務していた小村氏です。DIGという英単語には「掘り起こす」という意味があり、Disaster(災害)とImagination(想像)とGame(ゲーム)という文字をあて、災害図上訓練は「DIG」と名付けられました。私は、この「住民の命を守るためのDIG」を学校教育の中に位置づけていきたいと考えて勉強しました。

●DIGは継続が必要
 私はDIGを学んだ後、2000年4月に北海道教育大学函館校に着任し、函館でDIGの普及を試みました。当初は理解を示してくれる方は少なかったのですが、函館の町内会でDIGの研修会をするようになり、2003年から翌年にかけて道内全支庁を回りました。
 これまで、600回以上のDIGの研修会を全国で続けてきて、北海道にDIGの言葉も浸透してきたので、次の研究に移ろうかと考えていたときに、東日本大震災が発生しました。DIGがまだ伝わっていない地域、かつて実践していたけれどもやめてしまった地域もあったので、現在も研究を続けています。
 DIGは一つの手法であって、自分の地域を自分達で守っていくという、住民自治に発展させていくことが目的だと考えています。ですから、1回で終わらせるのではなく、DIGを通して次から次へと地域の問題に気づき、その解決をめざすことが大切です。

●住民の防災意識を高める
 皆さんは、東日本大震災を目の当たりにして、大変なことが起きていると感じたと思いますが、多くの人達はそのときの気持ちがだんだん薄れています。これは、自分の身に迫っている危険を、根拠もなく過小評価してしまう「正常化の偏見」という心理状態が人間にあるからです。
 昨年末、札幌市が住民に「防災意識や災害への備えについて変化はあったか?」という調査をしたところ、約7割が「災害への備えはしていない」という結果でした。また「防災活動に参加しているか?」という問いには、約3割が「参加したこともなく、したいとも思わない」という回答でした。
 このような人が、いざ災害に遭ったら、本能的な恐怖心を感じて、正しく判断し適切な行動をとることが出来ません。ところが日ごろから意識し、知識や訓練経験がある人は、理性的な判断に基づいて、自分の命を守ることができます。つまり、災害に対する意識が低い住民の防災力を向上させるために、何らかの手立てが必要です。
 人の意識は、外からの力では変わりにくいので、その人の内側に気づきを持たせることが大切です。「これでは死んでしまうかもしれない」「皆に迷惑をかける」「では、何をしたら良いだろうか」と気づいてもらうことが、住民の防災力向上に重要であって、この気づきをしてもらう手法の一つとして、DIGが有効なのです。
 

●自助・共助・公助で減災を
 阪神・淡路大震災においては、自分の命は自分で守った(自助)、それから地域の人達に守られた(共助)という被災者がほとんどでした。大規模災害において、自衛隊や消防・警察による助け(公助)だけでは、国民一人ひとりの命を助けることができないことが、はっきり分かりました。そして国は、被害抑止のため、いち早く国民に危険の情報を知らせるので、自分の命は自分で守って、地域で協力して助け合ってください、というスタンスに切り替わりました。
 ▲講義後、実施されたDIG
 今は防災ではなく、減災という言葉が使われてきています。自然現象が人間に被害を与えた場合に、それは災害になります。自然現象を防ぐことは出来ませんが、これによって引き起こる被害を出来るだけ減らし、少しでも早く社会の安定を回復させることが減災という考えです。このために、自助・共助・公助が、地域社会で一体となって災害に立ち向かわなければいけません。
 阪神・淡路大震災で亡くなられた方々の半数が高齢者でした。その後の新潟県中越地震、中越沖地震においても、多くの高齢者が亡くなりました。災害時要援護者を地域で守っていくことが緊急の課題と考えられています。そこで、国は共助として、地域の防災力を高めるために、自主防災組織や町内会活動をしっかりと行うように推進しています。

●DIGでまち育て・人育て
 防災については、起きてもいないことに対して地域住民に強い問題意識をもたせるのは難しいかもしれません。防災の視点から地域の問題を考えてみましょう。すると、雪の問題、ゴミの問題、子育て支援の問題、福祉の問題等、たくさんの地域課題が出てきます。
 ▲グループ毎の話し合い
 なぜこのような問題を防災の視点から扱うのかというと、防災について考えることは、全ての住民に関わることなので、議論に入りやすいからです。防災をテーマとしたDIGをやってみることで、住民一人ひとりに地域への気づきをもたせてください。それを積み重ねていくと、明らかになった様々な地域課題が解決出来るようになります。これが将来的には、まち育て、人育てにつながるのではないかと思います。